福本 俊樹

担当科目 経営学、経営組織論

研究テーマ:経営組織論

 あらゆる組織は、その目的を達成するためには、人間から「働く」という活動を継続的に引き出す必要があります。私が専門にしている経営組織論とは、組織が人間から「働く」という活動を引き出す「上手なやり方」を探究する学問であると言えます。
さて、それでは組織はどのようなやり方で、人々から「働く」という活動を引き出しているのでしょうか。古くは、命令や監視といった直接的なやり方で、半ば強制的に活動を引き出していました。しかし現代では、理念や使命を掲げる、やりがいのある仕事を与える、仲の良い職場を作るなどといった、より間接的なやり方が広く用いられています。それらは言わば、「自主的に働く人間を作る」というやり方だと言えるでしょう。これらは、ただ労働を強制する昔のやり方とは違い、人々に働くことの楽しさや満足を与えるという点で、より「上手なやり方」であると言えます。
ただし、こうした「上手なやり方」は、一歩間違えれば過酷な労働搾取にもつながります。「自主的に頑張って働いてくれる人」ほど、組織にとって都合のいい存在はないからです。実際、社員にやりがいを与えることで低賃金・長時間労働を容認させるというのは、いわゆるブラック企業の常套手段でもあります。
以上を踏まえると、われわれ組織研究者に求められているのは、組織が人間から活動を引き出すその様々なやり方に着目し、それらがどのような結果(良い結果/悪い結果)を引き起こしうるのかを冷静に検討していくことです。
こうした観点から、私が今とくに関心を持っているのは、現代のビジネス界において、われわれ人間がどのような存在として捉えられ、語られているのかということです。と言うのは、「人間とは〇〇な存在である/あるのが良い/あるべきだ」というように人間のあり方を規定することは、組織が人間から活動を引き出すそのやり方に密接にかかわっているからです。
少しわかりにくいと思いますので、例を挙げて説明しましょう。例えば、われわれ人間を「本当の自分/偽りの自分」という二つの対立的な側面をもつ存在であるとし、その上で「本当の自分」でいることを推奨する――よりわかりやすく言えば、「自分らしく働くことが大切だ」といったような――語り方は、ビジネス界にも広く流通しています。これは単に、「人は自分らしく生きるのがよい」ということを言っているのではありません。ここには、仮面を被った「偽りの自分」でいるよりも「本当の自分」でいる時の方が、人は伸び伸びと働くだろうという想定があります。つまり、組織が「自分らしさ」を良きものとして語り、人々に自分らしくいることを求めるのは、人々を自主的に働かせるためのひとつの工夫されたやり方なのです。実際、人に自分らしさを発見させ、自分らしくいることを促す様々な技術――自己分析や自分史、キャリア研修など――も、組織によって活用されています。
それゆえ、組織研究の立場からは、以下のような問いを立てることができるでしょう。組織が「本当の自分/偽りの自分」「自分らしく働く」といった言説を語り、それが人々に広く受け入れられた時、そこでは、人間から活動を引き出すためのどのようなやり方が可能になるのか。そしてそれは、どのような良い結果/悪い結果を、働く人々ないし組織に対して引き起こしうるのか。これはあくまで一例に過ぎませんが、以上のようなこと、「組織は人間をいかに語るのか」「そのもとでいかなる組織現象が生じるのか」といったことに現在関心を持っています。
最後に、忘れてはいけないのは、組織研究それ自体が、人間についての特定の語り方を社会に普及させる一端を担っていることです。事実、組織研究もまた、「本当の自分/偽りの自分」といった枠組みで人間を語り、「自分らしく働くのがよい」といった言説を社会に浸透させてきました。それは取りも直さず、組織研究自身が、良い結果のみならず悪い結果を現実に生み出すことにいくらか加担しているということです。それゆえ組織研究者には、自分たちの研究活動が実際の経営活動に及ぼす影響を反省的に問うこと、そして、もし悪い結果が現実に多く引き起こされているといるならば、それに対処することが求められます。こう言うと大変に思われるかもしれませんが、それは例えば、「本当の自分/偽りの自分」という常識的な枠組みに囚われない、新たな人間の語り方を生み出すことであるかもしれません。こうしたスリリングな作業も、組織研究には求められています。