久松 太郎
- 担当科目
- 国際経済学、貿易論、貿易政策論
研究テーマ:国際貿易の古典理論
私は、19世紀イギリスの古典学派が対象としてきた経済問題、とりわけ価値と分配の理論、成長理論、人口論、貿易論を総合的に研究しています。最も力を注いでいる研究は、国際貿易の古典理論に関する歴史考証や数理分析です。現代社会に生きる私たちは、国境を越えた企業買収や業務提携、企業の海外進出、貿易交渉など、国際経済にかかわる話題を日常生活でよく耳にしますが、このような経済・経営・政治に関する国際問題を考える上で重要な役割を担ってきたのが国際貿易の理論や思想です。
私の研究において特に注目してきたのが19世紀の経済学者ロバート・トレンズの理論と思想です。彼はナポレオンによる大陸封鎖発令の数年後に自由貿易の論客として現れ、事実上の保護貿易を規定する1815年穀物法にも反対しました。ところがドイツ関税同盟の成立をみる1830年代になると、貿易政策に対する彼の見地は大きく揺らぎます。当初一方的な自由貿易に賛成の立場にいた彼は、貿易相手国が保護貿易政策を採るならば自国も同様の選択をすべきという互恵主義の考えを強めていったのです。もちろん、自国も相手国も自由貿易政策を選択する場合のほうが、どちらも保護貿易政策を採用する場合よりも望ましいことは彼自身も認識していました。穀物法廃止の気運が高揚する1840年代には、彼は完全な互恵主義者へと変貌します。しかし1846年、イギリスは穀物法を廃止し自由貿易へと移行しました。この21世紀においてさえも貿易戦争や報復関税のニュースをみるように、これらに関する問題は単に歴史の一齣ではありません。それは歴史の中で幾度も繰り返される出来事(アメリカのスムート・ホーリー法成立をめぐる関税戦争など)であり、世界とともに生きる私たちにとっても無視できない重要な問題なのです。
最近は、上のような貿易政策思想に加えて、財の国際的取引における交易条件の決定理論に関する史的研究にも着手しています。そこには解決されるべき問題がなお残されており、その闡明は経済学全体の方法論の史的展開に新たな解釈を与える可能性を秘めています。
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