中道 一心
- 担当科目
- 経営学、経営戦略論、事業システム論、消費者問題、Business English
研究テーマ:事業システムと競争優位
2000年代、エレクトロニクス業界において多くの製品分野で日本のブランドメーカーは苦境に立ち、大多数の企業が消費者向けエレクトロニクス事業を縮小・撤退してきた。そんな状況のなかで異彩を放っていたのがデジタルカメラを供給する企業である。日本のブランドメーカーは民生用市場の立ち上がりから現在に至るまで、80%を超える世界シェアを獲得しつづけている。多くの家電製品はデジタル化し、製品構造がモジュール化した。これが日本企業の競争力低下の一因とされているが、デジタルカメラでも同様のことが起こっているにも関わらず、一貫して国際競争力を維持し続けているのか、その要因分析をわたしはこれまで行ってきた。デジタルカメラを小売市場に供給するブランドメーカーは性能向上・機能追加が続く競争環境に対応するために、絶えず事業の仕組み(事業システム)を変え続け、その際、自らの経営資源を正確に認識し、それを補いうる外部企業の経営資源を組み込むことによって、国際競争力を維持し続けてきた。
一方で2010年頃から、わたしたち一般消費者の多くは写真撮影をスマートフォンで行っており、それに伴って総出荷台数・総出荷金額はピーク時より大きく縮小している。デジタルカメラ本体(ボディ)は2010年に121百万台とピークを迎え、2022年には8百万台まで減少し、市場規模は1/10以上にまで縮小している(カメラ映像機器工業会の「CIPA REPORT」参照:以下同様)。総出荷金額に目を向けると、ピーク時の2008年の2兆1,640億円から2020年には4,200億円に落ち込んだものの、2022年には6,810億円まで回復しており、台数ベースと比較すれば、金額ベースは3/10弱の縮小に踏みとどまっている。またレンズ交換が可能なカメラボディに取り付ける交換レンズは、本数ベースにおいて68%減、金額ベースでは同13.2%減に留まっている(どちらもピーク時と2022年の比較)。つまり、写真撮影の主流はスマートフォンになったことは紛れもない事実であるが、レンズ交換式カメラを購入し、気に入った交換レンズを買い足す消費者が現前と存在するのである。
以上のように出荷台数の減少という現象に基づいて、当該産業を「斜陽産業」とすぐに呼ぶひとたちは多い。しかし出荷金額というもう一つの指標や、個別企業の事業別収益性に目を向けると、必ずしも「落ちぶれた」産業でもなければ、「先行きのない」事業でもない。このような事実が存在することを前提に、わたしは企業が市場の変化にどのように対応しているのか、言い換えれば、事業の仕組み(事業システム)を革新しているのかに着目し、持続的な競争優位に結びつく事業システムの設計と運営とは如何なるものかを探索している。
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