亀井 大樹

担当科目 アカデミック・リテラシー、ビジネス・トピックス

研究テーマ:経済史、経営史、商業史

 われわれの生活と密接に関わりのある「衣・食・住」。うち私は「衣」の歴史について研究しています。特に近年は綿フランネル(生地表面を起毛加工した綿布のことで、綿ネルと略されます)という一商品に注目して研究を進めております。綿ネルを生産した巨大企業の経営分析にとどまらず、新しい産業の勃興とその連関、われわれの生活に与えた影響と拡がりに関心を寄せています。
 そもそも綿ネルは明治初年に紀州で誕生した新しい商品でありました。明治中期には紀州から京都西陣、大阪、徳島、東京、愛媛今治などへ生産技術が移転し、日本各地で綿ネル産地が形成されました。一方本学のある京都は古代より染織の先進地でありましたが、幕末維新期には極度に衰退していました。在来の商人たちや機業家たちはただ衰退に甘んじるのではなく、綿ネルの改良と染織の近代化を実現する結社をつくり、外国技術を熱心に採り入れていきました。そうした持続的な努力はやがて巨大株式会社の誕生へ結実します。この巨大株式会社は外来技術の単なる移植にとどまらず、内製化と国産化を積極的にはかったことで、生地表面に華やかなデザインをプリントした綿ネルの発売に成功しました。明治期の綿ネルは寒冷地では主に襦袢、シャツ、腹巻、子ども服などにつかわれ、それまで着用されていた麻布などの自然布にとって替わられました。綿ネルの普及で庶民も華やかなデザインの衣料を安価で気軽に纏うことができるようになり、明治末には日本全国至るところで綿ネルが使われるようになりました。
 こうしてみてみると、綿ネルという一商品の誕生と普及は生産者・流通業者側の視点にたつと、新しいマーケットの獲得、産地の形成、関連する新しい産業(例えば機械捺染業やローラー彫刻業など)の勃興に貢献し、消費者側の視点にたつと、当時の日本人の衣生活水準の向上に大きく寄与したのでありました。